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ありのままの現実を書き殴る吐き溜め。底辺SEの備忘録。
Written by bon who just a foolish IT Engineer.

HARD THINGSを読み終えた感想-その2-

Created Date: 2019/02/27 01:04
Updated Date: 2024/01/01 02:55

遅くなったがベン・ホロウィッツ氏著書のHARD THINGSのレビュー第二弾。今回で最終章までレビューを書く。
前回はこちらHARD THINGSを読み終えた感想-その1-

6章 事業継続に必須な要素

僕としては一番得るものが大きい章だったと感じる。それゆえ記事が長くなってしまったわけで、なるべく小分けにして書いていこうと思う。

会社規模に応じて組織の仕組みも変える

会社の規模(特に従業員数)が大きくなるに連れ、組織の仕組みは変えなければならないというのが著者の話。 僕みたいに大きめの企業から小さい企業へ転職した人なら肌感覚で感じることができるけど、 最初から小さな企業で働き続けている人にとってはそうでないかもしれない。
これについては「規模の大きいシステムと小さいシステムで考えるべきことは違うしプロセスを変えることも必要」と、 若干視点を変えてプログラマ・エンジニアと言う観点でシステムを見た時を想定してもらえたら理解しやすいかと思う。

社内政治の削減と正しい野心を見極める方法

例えばシステム開発に不要なのは「鶴の一声」であり、偉い立場の人が自分の特権や権限で何かを決めることよりも、 実際に手を動かすエンジニアが自分たちの責任で決定した方向性のほうが将来的なモチベーションは確保しやすいはずだ。 (もちろん特権のみが知り得る正しい方法が存在し、それが成功する事例も無いわけではないが) 同じように、組織にも社内政治を最小限にすることが重要と著者は言う。 社内政治に対してアレコレ考えることが正しい仕組みになってしまうと、技術や能力的な評価以上に、 政治力の強い社員が有益となってしまう誤った評価制度が出来上がってしまうからだ。 とはいえ、社内政治を0にしろというわけではないらしい。ちょっと読解できないけど多分0にすることがまず無理だということだと思う。 なので、幹部社員相手には慎重に言葉を選ぶことがCEOのやるべきことだということらしい。 とくに野心の強い幹部社員に対してはより慎重な行動を取る必要があるとのことだ。

野心は大きく2つに分類される。「自分の責任を拡大し、自身の権利と成功を得るための野心」と「会社の利益を拡大し、組織の権利と成功を得るための野心」で、 それぞれ「間違った野心」と「正しい野心」とに言い換えられる。 組織に必要なのはもちろん「正しい野心」であり、この野心の有無をチェックするには面接時に「チームのメガネ」で物事を見ているかを問うことで判別できるそうだ。 「チームのメガネ」とは要するに「私は」とか「私の」という言葉を使わず、経歴や経験をチームや組織目線で語ることのできる視野のことを指す。 僕も自分の成功事例を語るときに、必要以上に自分本位になっていないか注意したい。

ここまでのまとめとしては、間違った野心の人間は前述通り社内政治を使い出すので彼らには気をつけなければならないうえに、面接時に判別できるようにすることが望ましいということであろう。

優秀な社員を雇うためには

優秀な人材が最悪になるパターンについても言及されている。 特に性格が根っこから反乱者であるパターンの場合は社員ではなくCEOのほうが性に合うとも書かれているので、 もし自分が「常日頃から所属する組織に対して文句を言いながらも、自分の理論を使って正しく組織を成長できている」という自負があるのであれば、 即刻組織を離れて自分で会社をつくろう。 あとのパターンは信頼のなさと、根性曲がりであるパターンだそうで、こちらは想像に難くない。

それともう一つ重要な「経験のある大人」の採用についても本章で触れられている。 経験のある大人とは「ある分野で経験を持った中途採用者」ということである。 例えば規模の小さな市場から、徐々に顧客数を増やしていって、ある時からシステムの設計が顧客規模に耐えられなくなったという場面を想定してほしい。 次にエンジニアが取るべき策はシステムの安定化であるが、大規模エンタープライズ開発の経験が社内に存在しない場合、 その作業は一向にして進まない。大体は多くの議論と挑戦による失敗と少しの成功で時間が埋め尽くされる。 スピードを上げて次のステージに進むにはその分野で経験値の高い人材を採用し、ブーストを掛けるほうが早い場面が多いだろう。 つまり重要なのは「どの分野で、どのような能力を必要とするか」を事前に採用前に定めておくことである。 また、経験者は総じて「自分の文化を持っている」し、「企業人としての渡り方」も知っている。 もし採用予定の人物が「大企業出身」だった場合、スタートアップの世渡りとは違う組織の動かし方をすることもあるだろうが、 そこを注意深く、今の組織のやり方に合わせてもらうようにお願いしなければならないだろう。 それに、「知らない分野で活躍する人」を評価する仕組みも事前に用意が必要である。 目標設定は経験者にまかせて、まずは見定める覚悟で高めの目標を設定してもらうと良いかもしれない。

個人面談の重要性

どんなに会社規模が大きくなろうと、社員それぞれのパフォーマンスは組織全体のパフォーマンスである。 ゆえに個人の仕事内容や現状を把握することは、組織全体を把握することである。 僕としては、個人面談は面倒で意味のないものと言ってる人たちは自分が部下やメンバーに信頼されておらず、正しいことを伝えてもらえていないと 声高に宣言していることに他ならないと思う。それくらい、モチベーションや信頼性は重要な要素だと考える。 個人面談時の質問の内容についても書かれているので、ここは必読である。

自分たちの企業文化を作る

散々ここまでで言われている通り、ベストプラクティスは企業の数だけあるわけで、 すべてをそっくりそのまま実践したからと言って正しいとは誰も言えないし証明できない。 自分たちが正しいと思える形になるまで試行錯誤することが重要なのである。

とくに企業文化は他社と自社を差別化できる重要な要素であるが、それも一朝一夕で出来上がるものではない。 正しいと思える行動を、常に組織全体で絶やさず継続して行っていく他に方法はない。 例えば福利厚生で「無料の食事」や「ヨガ・フィットネス」の開放などを謳って作られるような文化は文化ではないと著者は言う。 これは会社の利益や進むべき方向の価値に一致しないためである。 タニタ食堂が「社内食堂における健康」を推進することは組織として価値のあるものであるため、これは文化であると言える。 だが、他のテクノロジー企業が同じことをやったとしても、それはただの福利厚生であり文化ではない。

会社のスケーリング

いろいろと書かれているが、組織のスケーリングは製品のスケーリングと似ているという一言で説明がつく。 機能(人)の役割の明確化、クラス構造(組織構造)の設計、インタフェース(コミュニケーション手段)の実装などなど、 多くはシステム開発の言葉でおおよそ代替可能である。
今必要な人材、プロセス、役割、ルールを一つ一つ作り上げて経験していくことでしかスケーリングは実行できない。 ここでも著者が「今の能力」と「教育」に力を入れるべきと考えていることが伺える。 何にせよ現状で持った能力を存分に活かしてもらい、それを教育で組織が変わったとしても伸ばしていける土台を作らないと、 スケールする組織を作れないということだろう。

7章 やるべきことに全力で集中する

ここでも6章で述べたことが繰り返し述べられている。今やるべきことに集中するということだ。
CEOはトレーニングも教育も存在しない。それが組織にとって最上位の役職であるからだ。 CEOであるからには責任を誰かに添加することもできなければ「正しいこと」を教えてくれる人もいない。孤独である。いやーこれは大変だ。 とにかく知恵を絞って行動し、やるべきことを見つけ出す事が重要らしいんだけど、それはもはやCEOをやってみないとわからないという答えに行き着いてしまう。 そして勇気を持ての一言で済んでしまうのである。CEOとはなんと過酷な職であろう。

そんなCEOには2つの型に分かれると著者は言う。

  • ワン型
  • 会社の向かうべき方針を決めるのを得意とするCEO
  • ツー型
  • 決められた方針に沿って会社のパフォーマンスを最高にするのが得意なCEO

多くの企業のトップには「ワン型」が多いので、その右腕は必然的に「ツー型」になる図式が多いらしく、後継者を決める際に問題になるらしい。 この問題はどっちがどっちかでなかなか難しいため、結局理想はどっちなのかってのは組織によるとしか言えないだろう。 そういう意味でも、僕はこの章で取り上げられている内容としては、「戦時のCEO」と「平時のCEO」のほうが印象に残っている。

ワン型ツー型の話にも似ているのだけど、どちらのCEOとも全く違う能力が必要で、 方や平時のCEOは「勝利の方程式に従って行動する」ことを前提とし、戦時のCEOは「既成概念を打ち破って勝利を掴み取る」ことを前提としている。 これも結局は企業の「今」に対して取るべき施策を変化させるために、 「今は平時のCEOとして振る舞う」ことを要求されるかもしれなければ「戦時のCEOとしてチャレンジしなければならない」ことを要求されることもある。 ともあれ、1人が二役を実演するかどうかはまた別の問題ではあるが、「戦時のCEO」は時と場合に左右される要素が大変多いので、 こちらについては経営ノウハウが正しく役立つということはあまりないというのが著者の意見であった。 僕もそう思う。実際、戦時のCEOの代表格であるスティーブ・ジョブズのやり方で、どのような企業も正しく成功できるかといえば、 多分そうではないだろうと僕でもわかるからである。

あとこの章では「CEOの評価」についても書かれており、自分の会社のCEOが良いCEOかどうかを評価するための定性的な内容も書かれている。 例を挙げると「CEOは自分の掲げたストーリーを社員に説明できるか」や「社員が問題解決に貢献しやすくなっているか」などだ。
自分の所属する会社にちょっぴり不満のある人は、この内容だけでも読んだほうが良いと思う。

8章 起業家のための第一法則 -困難な問題を解決する法則はない-

あんまり自分に響いた部分は無かったっぽいので簡単にまとめる

  • 責任を努力・約束・成果で考えてみる
  • だいたい成果の面で評価が割れる。成果に鑑みてそれがビジネスに影響の大きいものであれば、 ある程度寛容になるのも大事
  • 対立部門の責任者を入れ替える
  • 隣の芝生は青く見えるとはこのこと。組織間で争いごとや揉め事が起きて収集がつかなくなったら、 双方の幹部を入れ替えると意外と上手くいくらしい。 「フリーキー・フライデー」を観よう
  • 最高を維持する
  • リーダークラスは育成にある程度時間を掛けるのはしょうがないとして、CTOとかCFOとかいう幹部職員はそんなもの必要ない。 必要な場合はそもそも基準を満たしてない。Fire! また、そもそもの役割として入社してもらった社員も、組織や市場の変化とともに役割も変わるし評価も変わる。 (例えば組織が巨大化したり市場競争が激しくなったり) そういうときの変化に対応できないのであれば、それは社員・会社共に良くない方向に向かう。 たとえこれまで会社に多大に貢献し、忠誠を誓った社員だったとしてもそれは例外ではない。

あとこの章でさらっと書かれているが、スタートアップの成功の鍵は製品販売の手法にあるそうだ。 もしスタートアップを起業するのであれば、優秀なエンジニアの次は優秀な営業か弁護士を採用すべきかも。

9章 わが人生の始まりの終わり

総括。著者の起業からバイアウト、そして現在の会社アンドリーセン・ホロウィッツを立ち上げるまでの流れを、 当時の社員や現在のメンバーを中心に話が進む。本当に人を大切にしていたことが垣間見える。
(この裏で名も語られぬ何人かの担当レベルの社員はクビを切られていたんだろうが……)

この章で一番肝に命じて置かなければならない点はやはりここだ。
CEOは常に絶対の自信を見せていなければならない

どんな苦境でも、どんな難題でも、どんな辛いことでもCEOは会社に1人しかいない職業であり存在である。 その当人がブレブレで慌てているようでは、会社が全体的に揺らぐのは必至なのだ。 著者自身、社員に自信を見せておきながら、本書に書かれている通り多くの苦悩と悪夢と不眠とに頭を抱え、 一日一日を生きてきている。ここに書かれているのは「CEOってすごいぜ!」なんてことではなく、 CEOがCEOとして振る舞うための原則だ。
今後起業したり幹部職についたりする人には、覚悟のすすめとしても有益な本である。 また、ビジネスにおいて「上の考えていることがわからない」とか「あのときなぜそう言われたのか」とか「なぜ首になったのだろう」ということを 担当レベルの社員が考える上でも、1つの助けになる本だと思う。

この本を以てより経営層と労働層が理解しあって会社・ビジネスを支え合うような関係が築けたらいいね!と思いつつ、 僕のレビューを終える。

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