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ありのままの現実を書き殴る吐き溜め。底辺SEの備忘録。
Written by bon who just a foolish IT Engineer.

HARD THINGSを読み終えた感想-その1-

Created Date: 2019/01/08 01:51
Updated Date: 2023/11/05 03:00

読み終えた。それなりに時間がかかった。 そのため最初の章あたりは記憶が定かではないが、読みながら(電子ではないので)折り目をつけたり線を引いた場所を思い出しながら書いてみる。 ちょいちょいピーター・ティール氏の名前が挙がってくるのは、この本を読む前に彼の著書「Zero to One」を読んでいるからである。こちらもそのうち感想を書こうと思う。

1章 妻のフェリシア、パートナーのマーク・アンドリーセンと出会う

LDAP作ったのってベン・ホロウィッツ氏だったのかーっていう部分だけ。 それ以外は序論であることと自己紹介みたいな内容なので、知らない人からすればへぇーそうなのかっていう知見がいっぱいあるんだろうけど、 大体のインターネット史を知ってるという人にとっては幕開けに過ぎないので読み飛ばしても問題ないかなと思う。 とはいえ、重大な要素(妻の話とか親友の話とか)もさり気なく出てきているので、読んだほうが著者の人となりが分かるので良い。

2章 生き残ってやる

全体としてベン・ホロウィッツ氏がラウドクラウドを売る話。買収先をIBMとEDSで迷ったものの、結果的にEDSに買収をお願いすることで生き残り成功(従業員440人が助かる)

ドットコムバブルの恐慌について書かれている。1999年時代にITを開拓した人たちの著書には欠かせない要素。これはピーター・ティールも同様である。おそらくMSもだろう。
僕が注目した点は「投資家を探すのならたった一人を探せ」という部分だったようだ。 要するに 「Yes」という投資家が1人いるならば、その人だけで良いということである。 たった1人でも味方になってくれる人は離さないことと言い換えることもできるかもしれない。 また、後々にもいろいろ出てくるけれど、本書で登場するビル・キャンベル氏は、様々な場面で著者の先導者として仕事をしている。 こういう人を起業時には探さなければならないのだろうなという印象も結構強い。とはいえ、その人が「代わりのCEO」でないことを祈らなければならないのだが。
(あとがきにも書かれている通り、そもそもベン・ホロウィッツ氏が後にベンチャーキャピタル企業を立ち上げた理由は、この2章で語られているラウドクラウド経営時代に、彼が「さっさと代わりのちゃんとしたCEOを探してきて」と当時の投資家に言われて激怒したことに起因する。「代わりのCEO」が必要という理由は、ようするに会社の成長に起業家自体は不要なのでここらで退場してくれと宣告されているようなものである。そういった観点からも、誤った野心のある相棒を先導者に選ぶべきではない)

もう1点はCAA(クリエイティブ・アーティスト・エージェンシー)を経営するマイケル・オービッツ氏の「せり合わせ効果を信じている」という部分。 買収も市場もある種の競争は避けては通れないんだけど、それを自社の利益にするためであればやったほうが良いということらしい。 これは競争が起きることで自分たちが疲弊することとは違う。競争が起きることで優位性を保つことができるということだ。 例えばこの章では触れられていないけれど、著者がラウドクラウドのあとに立ち上げたオプスウェアという企業は、サーバー管理自動化/データセンター運営自動化という市場でNo1になった。 その間に競合他社としてブレードロジックという企業が後を追ってきた。この2大巨塔の競争のおかげで、大企業(MSとかHPとかOracleなど)は、この分野の市場を得るためには買収するほうが楽という結論を導くことになったのである。この2社の競争はある意味で双方の価値を高めるための競争であり、市場を開拓し唯一無二の企業へと成長するためのものであったと考えることもできる。
もちろん、この2社以外にもその多数の同市場をターゲットにした企業はあったんだろうけど、そっちの競争はレッドオーシャンであり血を血で洗うような闘争が発生していたんだろうから、一概に競争が正解というわけではない。これこそ 市場で勝ちたければ、No1を目指さなければならない理由であろう(多分)。

3章 直感を信じる

うまくラウドクラウドの売却に成功して命からがら生き延びることのできた著者は、懲りずに(?)新会社オプスウェアを設立する。 もちろん周りからは「やめとけ」と言われただろう。でも彼には信じるにたる技術と市場優位性がオプスウェアにはあると確信していた。 が、案の定そう上手くは行かず会社は60日の余命となってしまう。 オプスウェアの最大顧客はラウドクラウドを買ってくれたEDSという企業であった。つまりオプスウェアの命運はEDSにかかっているということである。 オプスウェアはラウドクラウドという製品(会社名と同じなので分かりづらい)上で動くソフトウェアを作ってる企業ということである。 つまりEDSのラウドクラウドはオプスウェアが作ってるという感じになる。まぁそんなこんなでEDSを顧客として引き留めるためにEDSの得意顧客だったタングラムを買収。ギリギリで命拾いする。(このときタングラムのCFOのジョンは脳腫瘍を患っており、ベン・ホロウィッツは彼を助けるために手を打っている。が、その15ヶ月後に彼は亡くなっている。この行動自体、ベンは「本当の絶望を知っているから」と書いている)

だが再度窮地がやってくる。競合他社のブレードロジックの存在である。そこでベンは開発メンバーにすべてを正直に打ち明け「自社のために死ぬ気で働いてほしい」と伝える。このときのことを、当時の開発メンバーであったテッド・クロスマンが15年後に振り返っており、ベンのおかげでチームの結束力が上がったと述べている。

ベンが「イノベーターとはときに顧客が真実だと思っていることを無視してでもやるべきことをやる」という判断を都度実施しつつ開発を進めていくうちに、オプスウェアの評判は上がっていくことに。(途中開発より買収するほうがコストパフォーマンスが良いという理由でレンディジョンネットワークを買っていたり、シスコ社と再販契約を結んだりもしている)

そうして、HPに買収されることになる。このときの決定理由は会社全体の多数決(ベン自らヒアリングし、社員から売るという結論を聞き出している)である。

この章で印象的なのは オプスウェアをその後HPに買収されるまで辞めた社員が2名しかいなかったことと、 めちゃくちゃ大変だったけどみんなで協力して乗り越えてきたことは、成長にとって素晴らしい体験であったとエンジニアが言っていたことだ。挑戦はいつだって困難が伴うが、乗り越えたときのチームとの結束や個人の達成感は大きい。それを物語るシーンである。

あとさらりと書かれているがやっていないことを確認することは結構有益であるのは僕も思う。TODOリストを作って実践したあと「じゃあこれ以外にやっていないことは?」と自分に尋ねると意外と別のやらなければならないことが見つかることは多い。

4章 物事がうまくいかなくなるとき

この章あたりから著者の実際の経験からCEOやエグゼクティブを目指す人へのアドバイスが多くなってくる。つまり面白くなってくる。

例えば「辛い時に役立つかもしれない知識」というなんともメシアのような項目も存在する。書かれてあることを要約すれば「諦めずにみんなで戦おう。そして運をつかもう。最善の手を常に探そう」かな?
あとこの章ではレイオフについても書かれている。日本から見ればシビアだなーと思うことばかりである。レイオフおよびそれに関連する人材の評価について著者の考えとしては「その時その時で会社が必要とする社員の能力や成果は変わるから、都度意識して適切な評価をすること」ということらしい。 これは全く簡単ではない。筆者の場合はこれを実践するために部下を教育することの重要性を説いているし、1on1面談やフィードバックを定期的に実施して常日頃から全体の評価を見えるようにしておくことを重要視している。面倒くさいという人のほうが多いかもだが、僕はこの意見に賛成する。 現代社会において技術が古くなる可能性なんてのは著者がCEOをやっていた頃よりも数倍も高いはずだ。そんなときにのんきに4年前の技術指標を持ち出して評価していても、全く意味はないだろう。 まぁ、これをレイオフの道具に使うか、社内の革新・刷新に使うのかは別だとは思うけど。

また、著者は毎回のごとく「嘘つかず正直に時間をおかずにあらいざらい全社員に明示しよう」ということも言っている。これもそのとおりだと思う。順番を付けられた社員は「なんで俺は重要な情報を後から言われたんだ?」って思うだろう。嘘に至っては「この問題はXXXXのせいだから自分らに問題はない」みたいな責任転嫁にもつながる。結局それは真実から目を背けているのと同じだ。誰だって見たくない真実はある。だけど、ことにCEOがそこから目を背けてしまっては、社員全員が「本当のこと」を知らないまま不幸になるだけである。
特に「会社が悪戦苦闘し始めると、辞めた社員に対して社内ではその人を『元々会社が必要としていなかった人』と言い出す」っていう記述については笑えるくらいそうかもなぁと思ってしまった。自分らの問題を人生を会社に捧げてくれた人に押し付けるなんて、子供でもやらないじゃないか。

そして、この章の最後はこう締めくくられている。

どの会社にも、命がけで戦わなくてはならない時がある。戦うべきときに逃げていることに気づいたら、自分にこう問いかけるべきだ。 「われわれの会社が勝つ実力がないのなら、そもそもこの会社が存在する必要などあるのだろうか?」

僕はこの極論は、0か1かという問題と同じだと思う。1になれなければすなわち負けである。多分負けず嫌いの人ならわかると思う。 あ、あと「銀の弾丸を1発お見舞いするより鉛の弾丸をある分撃とう」ってのも書かれてる。これは人月の神話然り言われている通りだ。

5章 人、製品、利益を大切にする--この順番で

ベン・ホロウィッツ氏もピーター・ティール氏も何を重要視しているのかというと「人」なのだ。エンジニアリングの生産性を上げるのに重要な要素に人のモチベーションとチーム力であると僕も思っている。書籍のTeamGeekとか「効果的なチームとは何か」を知るには、もう少しこの話題について深堀りしてくれている。
なお、余談ではあるが日本でもリンクアンドモチベーションという会社が企業のモチベーション向上の支援をする事業をだいぶ前からやっている。

僕は人を扱う仕事の中でも「チーム(組織)を作る」っていう部分に大変興味を持っているものの、まだまだ実績を積めていない。本書でマーク・クラニー氏という人物が出てくるんだけど、彼はセールス担当者の教育プログラムをこれでもかってくらいまとめまくって1つの体系的なマニュアルを作っていたそうだ。やはり実体を作り込まなければ駄目だなと、何も生み出せてない自分が恥ずかしくなった。
その後読み進めると「なぜを伝える」ことの重要性について書かれている。指示を出す側として指示を受ける側もだけど「なぜ」を意識してほしいなとは僕も思っている。能動的な行動は「なぜ」を考えることからしか生まれないと僕が思っているからである。

そして話は教育に移る。ここでは「スタートアップは採用と面接のプロセスに多大な力を注いでいるが、人への投資がそこで止まっている例が多い」ということが書かれている。 余裕が無いといえばそうだろう。でも、「その社員を増やしたことで何が変わったか(本書ではこれを生産性という単位で測るようにと書いているが、企業によって生産性の基準や捉え方は違うと僕は思う)」を明確にできなければ、採用が「正しかった」ことを証明できないのである。既存システムのアーキテクチャがいつの間にかめちゃくちゃになる理由もここにあると著者は言う。結局採用した人を正しく教育できていないせいで、採用された各人が好き勝手に改修してしまうからだ(身に覚えのあるエンジニアは多いのではないだろうか……)
こういう点を問題にしているのでもちろん著者としての「教育のやり方」についてのアドバイスもある。簡単にまとめると以下のような感じ。

  • 社員が自分の仕事を遂行するための知識とスキルを身に着けさせる教育を実施する(機能教育という)
  • 例えば製品の歴史的なアーキテクチャを叩き込むとか、新入社員に何を期待しているかを説明するとか…
  • チーム内で最も優秀なエキスパートを教育に参加させる
  • マネジメント教育を実施する
  • 幹部やマネジャーが独断と偏見で部下を判断していては、CEOは正しい決断を下せない。当たり前である。
  • 最後に最も成熟したスキルを相互伝搬する
  • 会計のエキスパートは会計の教育を、交渉のエキスパートはその教育をといった具合に分野の幅を広げることで社員それぞれの仕事の幅も広がり、 教える側も体系的に知識をまとめたり勲章を得たりできる。

あとこの章の最後に書かれている良い製品マネジャー、悪い製品マネジャーについては外部リンク先に和訳があるのでぜひ読んでほしい。 この文章が20年以上も前に書かれていることに驚く人は多いだろう。つまり、今僕らが直面しているIT界隈の問題なんてのは、20年も前から何も変わっていないということなのだ。

長くなってしまったので6章以降はその2に続く……。

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